学術変革領域研究(B)2020年度~2022年度シナジー創薬学

Outline of the area領域概要

本領域では、複数の薬剤の組み合わせによる相乗効果(薬剤シナジー)を体系的に研究する新しい学問領域「シナジー創薬学」を提唱し、情報科学・物質科学・生命科学の協奏によって、薬剤相乗効果の統合理解とその設計手法の構築を目指す。

領域代表より

複数の薬剤の組み合わせによる相乗効果(薬剤シナジー)を活用した化学療法が、がんや神経変性疾患など多因子疾患に対する有効な治療法として注目されている。治療効果の増強だけでなく、個々の薬剤の使用量を減らし、重篤な副作用の発現頻度を低下させるなどの利点があり、これまでの治療法を一新させる可能性がある。しかしながら、やみくもな薬剤の組み合わせは有害な副作用に繋がるため、最適な薬剤の組み合わせを同定する必要があるが、極めて困難である。これまでに報告されてきた薬剤シナジーは、臨床研究で偶発的に発見されたものが多く、疾患特異的な薬剤シナジーの発現メカニズムはよく分かっていない。薬剤シナジーは、薬剤群と生体分子群の相互作用によって生み出されると考えられるが、どの生体分子(治療標的分子)への作用の組み合わせが薬物シナジーに繋がるかは不明である。

近年、物質科学と生命科学の分野では、薬剤や化合物に関する様々なビッグデータ(ゲノム、オミックス、コンビナトリアルケミストリーなど)が創出され、蓄積されてきた。一方で、情報科学の分野では、人工知能(AI・機械学習)の技術の発展が著しい。そこで、物質・生命関連ビッグデータを有効利用し、AI で膨大な組み合わせを探索できれば、薬剤シナジーの研究において突破口となる可能性がある。本研究では、薬剤シナジーを体系的に研究する新しい学問領域「シナジー創薬学」を提唱し、情報科学・物質科学・生命科学の協奏によって、薬剤相乗効果の統合理解とその設計手法の構築を目指す。

学術変革領域「シナジー創薬学」

本領域が提唱する「シナジー創薬学」は、情報科学で発展著しいAI によるビッグデータ解析を介した、生命科学分野と物質科学分野の連結によって生み出される新しい学問領域となる。生体分子データをAI 解析するバイオインフォマティクス、薬剤・化合物データをAI 解析するケモインフォマティクス、医療データ解析、予測・設計した化合物の構造を実際に合成できる有機化学合成、予測した薬理作用を細胞レベル・動物レベルで検証できる薬理学を融合させ、本領域の研究項目を実現する。研究体制は、AI 班、医療データ班、薬理班から構成される。

取り組み

計画班A01(AI 班)代表者の山西はバイオインフォマティクスやケモインフォマティクスの専門家である。薬剤の標的分子や新規効能の予測を行う機械学習手法の技術を薬剤の組み合わせに拡張し、本研究で提案する薬剤の組み合わせやシナジー効果を予測する機械学習手法を開発する。分担者の竹下は数理科学の専門家であり、薬剤や生体分子の組合せ問題の数理モデル化とその理論的解法を開発する。分担者の天池は有機合成化学の専門家であり、シナジー効果を持つ化合物の化学構造を予測・設計する。

計画班A02(医療データ班)代表者の座間味は医療ビッグデータ解析の専門家である。本研究では、FAERS やJMDC などの医療ビッグデータを解析して、疾患予防効果のある薬剤ペアや薬剤組み合わせを予測するデータマイニング技術を開発する。

計画班A03(薬理班)代表者の合田は薬理学の専門家である。薬剤群によるシナジー効果を検証する病態モデルを構築し、予測した薬理作用を実験検証する。

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